生殖補助医療(ART)不妊治療
生殖補助医療(ART:Assisted Reproductive Technology)とは、体外に取り出した卵子・精子を用いて不妊治療を行なう医療技術です。2019年に日本では60,598人が生殖補助医療により誕生しており、全出生児の7.0%を占めました。生まれた赤ちゃんの約14人に1人が生殖補助医療で誕生していることになります。
1 体外受精・胚移植(IVF-ET) 卵子を採取し体外で精子と受精させ培養し、受精卵(胚)を子宮に戻します。 顕微授精:卵細胞質内精子注入法(ICSI) 顕微鏡下で1匹の形態良好精子を選別して、卵細胞質内に注入し受精させます。
体外受精の流れ
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1.卵巣刺激
妊娠の確率を上げるために、排卵誘発剤を使用して複数の卵子を育てます。排卵誘発剤の種類や投与方法などにより様々な方法があり、患者さまの卵巣機能の状態に合わせて決定します。
〉詳しいスケジュール -
2.採卵・採精
成熟した卵子を排卵前に体外に取り出します。静脈麻酔下で経腟超音波を見ながら腟から卵巣に針を刺し、卵胞液とともに卵子を吸引して回収します。同じ日に、パートナーに精液を採取していただきます。
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3.受精と胚培養
受精の方法には、通常の体外受精(IVF)と顕微授精(ICSI)の2通りがあります。
- 体外受精(IVF) …
- 運動性の良好な精子を回収し、卵子の入っている培養液中に加えます。
精子自身の力で卵子に侵入し受精します。 - 顕微授精(ICSI) …
- 顕微鏡下で1匹の形態良好精子を選別し、細いガラス管を用いて卵細胞質内に注入して受精させます。顕微授精では、ほんのわずかでも精子がいれば治療が可能です。
- 顕微授精は以下の場合が適応になります。
・精子濃度が極めて低い。
・精子の運動性が極端に低い、または運動性が認められない。
・前回の体外受精で受精障害が認められた。
翌日、卵子と精子の受精を確認し、受精卵(胚)をさらに培養液の中で育てます。
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4.胚移植(ET)
採卵から2~3日目に良好胚を選別し、原則として1個子宮内に移植します。採卵後5日目まで胚を培養して、着床直前の胚盤胞まで育ったものを移植する場合もあります(胚盤胞移植)。
2 タイムラプス培養 顕微鏡とカメラを内部に備えた培養器(タイムラプスインキュベーター)で、外に受精卵(胚)を出すことなく、受精から胚盤胞形成までの成長を連続して観察します。
当院では、培養している受精卵(胚)を培養器の外に出すことなく、受精から胚盤胞形成まで、成長を連続して観察することができるタイムラプスインキュベーターを導入しています。
タイムラプスとは、一定間隔で写真を撮影し、それらを繋ぎ合わせて動画のようにする技術です。
通常では1日1回受精卵を培養器の外に出し顕微鏡で観察を行いますが、タイムラプスインキュベーターには内部に顕微鏡とカメラが備えられているため、受精卵を培養器の中に入れたままで観察することができます。
タイムラプス培養のメリット
- 培養環境の安定化
- 培養器の中に入れたまま受精卵の観察ができるため、培養器の外に出すことによる光や温度、空気組成の変化などのストレスをより少なくすることができます。
- 良好胚の選択
- 連続した発育過程を動画で観察できるので、胚の発育状況(適切な時期に規則的な成長をしているか)をより詳しく知ることができます。形態的なグレードの評価と組み合わせることで、より妊娠しやすい胚を選ぶことが可能となります。
※当院では患者さまのすべての受精卵をタイムラプスインキュベーターで培養しています。
実際のタイムラプス動画
3 胚凍結保存 体外受精や顕微授精で得られた受精卵(胚)を凍らせて長期間保存します。
現在、多胎妊娠を防止するため移植する受精卵(胚)は、原則1個とされています。(日本産科婦人科学会会告)
複数の良好胚が得られた場合、移植をしない胚は凍結保存することができます。また、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)を発症する可能性が高いと診断された場合、子宮内膜・ホルモンの状態により着床に適さないと判断された場合には、採卵した周期に移植せず凍結保存することがあります(全胚凍結)。当院ではガラス化法(Vitrification法)という方法で凍結を行い、胚は-196℃の液体窒素の中で保管されます。
凍結胚は着床に適した周期に融解して移植します。
凍結保存の注意点
- 一旦凍結して融解するという物理的に大きな変化を胚に起こすため、一部の胚が凍結・融解後に変性してしまうことがあります。
- 融解時に胚が生存してなく移植ができない場合でも、凍結保存料の返金はできません。あらかじめご了承願います。
- 保存期間は保険診療の場合は1年間、自費診療の場合は6ヵ月間です。それ以上の保存をご希望の場合は、1年ごとに更新の手続きをお願いします。
- 凍結保存の期限日が近づきましても、当院からお知らせはいたしません。保存期限が過ぎても更新のお申し出がなかった場合は、破棄させていただきます。
- 凍結保存の延長を希望されない場合も申込書の提出が必要となります。
- ご夫婦が離婚されるか、どちらか一方が死亡された場合、行方不明の場合、母体の生殖年齢を超えた場合は、凍結胚の保存更新はできません。
- 天災・火事・事故、閉院などにより保存継続ができなくなった場合は、凍結保存を中止いたしますのでご了承ください。
4 凍結融解胚移植 凍結保存されている受精卵(胚)を適切な周期に融解して移植します。
体外受精や顕微授精でできた受精卵(胚)を凍結保存しておき、採卵した周期とは別の周期に融解して移植します。凍結している胚の発育段階(培養日数)と子宮内膜を同期させる必要があり、それには2つの方法があります。
- 自然周期
- 自然な排卵のタイミングに合わせて移植する方法
- ホルモン補充周期
- ホルモン剤を使用して子宮内膜を整える方法
※当院では主にホルモン補充周期で行います。
〉詳しいスケジュール
5 アシステッドハッチング 胚移植を行う前に透明帯を薄くして胚の脱出を助け、着床しやすいようにします。
卵子は透明帯という膜に取り囲まれ、受精後は透明帯の中で分割しながら成長し、胚盤胞へと育ちます。胚盤胞は、着床するときに透明帯を破り外へ出てきます。これをハッチング(孵化)といいますが、透明帯が厚かったり、硬かったりするとうまくハッチングすることができず着床することができません。そこで胚移植を行う前に透明帯を薄くしてハッチングを助け、着床しやすいようにします。当院ではレーザーによるアシステッドハッチングを行っています。
6 高濃度ヒアルロン酸含有培養液 高濃度のヒアルロン酸を含む培養液を胚移植に使用することで、胚移植後の着床率、妊娠率、生産率の向上が期待できます。
ヒアルロン酸は、もともと卵胞液中や子宮内膜などに自然に存在している粘稠性(ネバネバした)物質です。
胚と子宮内膜との接着(着床)を促す効果があると考えられています。高濃度のヒアルロン酸を含む培養液は、移植された胚周辺の粘稠性を高め、子宮内膜への胚の結合を向上させます。